引き取り屋の存在と、私が衝撃をうけた一枚の写真

可愛い犬の動画がSNS上で注目を集めたり、CMに出演している猫ちゃんが大人気になる現代の日本であっても、ペットたちを取り巻く環境は深い闇に覆われています。何かが少し違っただけで、むーたんも残酷な運命に飲み込まれていたかもしれません。悪質なブリーダーやペットショップの存在、台頭してきた引き取り屋の存在など、ここでは私たちの身近に潜んでいる、ペット業界の闇について解説します。

売れ残った子たちは“在庫”

ペットショップは仕入れた子犬たちを長い間店頭に置いておくのを嫌がります。子犬や子猫は生き物ですから、生きていれば当然ごはんを食べますし、病気になったりすることもありますよね。子犬や子猫がお店に留まる時間が長ければ長いほど、彼らにかかるお金(経費)はどんどん増えていきます。

ペットショップは子犬たちを仕入れ値よりも高く販売できて初めて利益が出るビジネスモデルですので、経費がかさむと利益はどんどん減っていき、さらにさばけないとなると赤字を抱えるようになってしまうのです。

少し前までは在庫処分が可能だった

約5年前までは、ペットショップが子犬を保健所に持ち込んで殺処分することはよくあることでした。いつまでも売れない子を店頭に抱えておくより、新たに売れそうな小さい可愛い赤ちゃん犬を店頭に置いたほうが利益になるからです。朝日新聞の太田記者が書いている本「犬を殺すのは誰か」によると、お店の裏で子犬を冷蔵庫に入れて殺していたペットショップもあるというのですから驚きです。

この本を読んだとき、あまりにも野蛮な内容ばかりで信じられない気持ちでいっぱいでした。「こんなことを犬に対してするなんて、一体いつの時代なんだろう」と思いましたが、ちょっと前のことなんですよね。実家で楽しく暮らしているヨーキーのこうちゃんは、今から10年前にペットショップで出会った子なので、もしかしたら、私たち家族に出会っていなければ、ペットショップの人の手によって保健所送りにされていたかもしれないのです。

今は表立って処分できなくなっただけ

2013年に動物愛護法が改正されたことで、ペットショップやブリーダーなどの業者が犬たちを保健所に持ち込むことはできなくなりました。しかし、ペットショップのビジネスモデルを考えれば、この法律が根本的な解決にはならないことは明らかです。ペットショップ側では「在庫」を抱えられないのですから。そんな状況を受けて、台頭してきたのが「引き取り屋」という存在です。

引き取り屋の存在を初めて知った時の衝撃

私は今まで、ペット業界の闇をなんとなく知っていました。殺処分されている犬がいることや、悪質な環境で辛い思いをしている犬がいることは知っていましたが、そういった情報はなるべく触れないようにして生きてきました。私が事実を知ったところでなにもしてあげられないし、ただ胸が痛くなるだけ、ただ辛くて苦しいだけ、と思っていたのです。でもある日、仕事でたまたま見てしまった一枚の写真が、私の価値観を大きく変えました。

引き取り屋とは

動物愛護法が改正したあと、ペットショップは表立って犬たちを処分できなくなりました。しかし、だからといって赤字を生み出す売れない犬を手元に置いておくわけにはいきません。そんなペットショップからお金をもらい、売れ残った犬を引き取ってくれるのが「引き取り屋」です。

彼らは犬たちを引き取ったあと、親切に育てるわけではありません。引き取り屋に引き取られた犬たちを待ち受けるのは、劣悪な環境と悲惨な運命です。ごはんは十分に与えられず、病気の治療はしてもらえず、死ぬまで狭い金網のケージの中に閉じ込められます。お散歩に連れて行ってもらえないどころか、糞尿の掃除すらしてもらえません。当然、誰かに愛されることなどありません。

私が見た写真は、そんな引き取り屋で過ごしていた、ある犬の写真でした。

職場の後輩からチャットで記事のURLだけが送られてきて、何も考えずにURLをクリックしたら唐突に飛び込んできた、こちらをじっと見つめる犬の写真。記事自体もかなり衝撃的な内容でしたが、記事のトップに載せられている犬の写真から、私はしばらく目を離せないでいました。

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大量の純血種が金網のケージに

犬はもふもふしたところが大好きですよね。むーたんはいつも、クッションやお布団のようにモコモコしているところがあれば、その中でも一番ふかふかしたところを探し出してくつろぎます。堅いところや冷たいところ、金網の上は大嫌いで、お散歩中にマンホールや下水溝を覆う金網に出くわすと、必ずぴょんと飛び越えるか、回り道をして避けるように歩きます。

写真に写っていた犬は、床も全て金網でできているケージの中にいました。むーたんが嫌う金網の上で、その子は何日も何ヶ月も、下手したら何年も、ずっと耐えていたのです。金網の上で長時間過ごしたことにより骨に異常が見つかった子や、精神的におかしくなってしまった子もたくさんいたそうです。大量に溜まった糞のせいで金網は腐りかけていました。

そんな糞の山から少しでも離れるように、ケージの隅に縮こまってこちらをじっと見つめているその犬は、長く見ていなかった光に戸惑っているようでした。逃げようとしたり、威嚇したりするような素振りは見せず、ケージの奥で手足を縮めて、それでもじっと耐えているように見えます。

知り合いの家などで可愛がられていてもおかしくない、可愛い子でした。そんな可愛い子が、人間に可愛がられるために生まれてきたはずの純血種の犬たちが、生きているのか死んでいるのかもわからない地獄のような環境で、それでもじっと耐えている、そういうことが今の日本でも色んなところで起きているという現実を、私は強烈に突きつけられました。

飼い主としてできること

飼い主さんたちの意識が変われば…

私は今でも、そういった辛い現実を直視することが苦手です。でも、私に毎日たくさんの幸せを運んでくれるむーたんのおかげで、「このままではダメだ。」と思うようになりました。私にできることがないか、たくさん考えました。そして思ったのは、今愛犬と一緒に過ごしている飼い主さんの意識が変われば、ペット業界も少しずつよくなっていくのではないか、ということです。

飼い主さんが正しい知識を身につけられれば、犬に優しいペットショップを見分けられるようになります。これから犬を迎えようと考えている友達に、「あそこのペットショップは犬に優しいからおすすめだよ。」と教えてあげることができます。消費者側の意識が高くなれば、ペット業界も変わらざるを得なくなります。動物愛護法も力を持つようになるでしょう。

ペット業界の現実を把握したいなら

私の価値観を大きく変えた記事は、朝日新聞の太田記者が執筆したものです。太田記者は不透明なペット業界を自ら調査し、「犬を殺すのは誰か」という本にまとめています。淡々とペット業界の状況を説明しているこの本を読み切るのに、私は相当な時間をかけてしまいました。読んでる途中に号泣して文字が読めなくなったり、あまりにも気持ちが乱れてしまい、何度も中断せざるを得なかったのです。むーたんパパにも「もう読むのやめたら?」と言われながらも、時間をかけてなんとか読み切ることができました。

悲しい情報が苦手な方にはオススメできませんが、ペット業界の現状を把握するためにはとてもいい本だと思います。もし「きちんと理解したい」と思われている方は、ぜひ読んでみてください。

まとめ

むーたんもこうちゃんも、私にとってはかけがえのない家族。写真の犬たちも誰かに巡り会えていれば、きっとその誰かにたくさんの幸せを運んだことでしょう。ペットの犬や猫は、私たち人間が可愛がるために、その目的のために生み出した命です。だからこそ、全てのペットたちに素敵な出会いがあるように、私たちは飼い主としてきちんと考えなくてはならないと思います。