私たちとむーたんが出会ったのは、六本木の大きな道路沿いにあるペットショップでした。可愛い子犬に囲まれたその場所は、そのときとてもウキウキする場所だったのです。しかし、むーたんと楽しい日々を過ごせば過ごすほど、そしてペット業界について知れば知るほど、ペットショップで子犬を見るのがとても辛くなりました。いつか、日本がもっと動物に優しい国になるために、ぜひ飼い主さんにはペットの流通についてきちんと知っておいてほしいと思います。
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人間にとって子犬は家族だけど…
今でこそお家が大好きなむーたんですが、実はお家に来てから1ヶ月くらい、なかなかお家に慣れてくれませんでした。そして、私たちとむーたんの間には大きな壁がありました。あまり懐いてくれないむーたんとの日々は、思い描いていた生活とは全く違い、色々と悩んだものです。そんな経験から気付いたのは、私たち人間にとって子犬は家族でも、子犬にとって私たちは見ず知らずの他人、ということでした。
赤ちゃんむーたんにとってのお母さんは、むーたんを産んでミルクを与えてくれたお母さん犬です。むーたんにとってのお家は、そんな優しいお母さんと一緒に過ごした場所のはずです。まだほんの小さな赤ちゃんの時にお母さんから引き離され、ひとりぼっちでペットショップのショーケースで過ごす日々は、どれほど心細かったでしょう。こんなにくっつきたがりで甘えん坊なむーたんが、赤ちゃんの時にずっと一人で我慢していたことを思うと、胸が痛くなります。
もちろん、むーたんのように1ヶ月近く心を開いてくれないケースは少ないでしょう。早ければお迎えして1〜2日でお家に慣れ、すぐに家族同様になれるケースもあると思います。それでも、子犬を迎えた飼い主さんには、母犬から引き離された子犬の気持ちを、一度は考えてみてほしいと思います。
子犬たちはどこからやって来るのでしょう?
みなさんはペットショップの子犬たちがどこから来ているかご存知ですか?ここでは、子犬たちが生まれてから飼い主さんに引き取られるまで、どのような流れを辿ってきたのか解説したいと思います。
ただし、ここでは深すぎるペット業界の闇に焦点をあてるつもりはありません。昔の私がそうだったように、あまりに残酷な内容だと受け止められず、目を背けてしまうという方も多いと思うのです。なので、まずは自分と一緒に暮らす子犬がおうちにやってくるまでどんな生活を送っていたのか、その事実を知ってほしいと思います。
子犬が産まれる場所
子犬の繁殖を行なっている人たちのことをブリーダーと言います。ブリーダーのもとで新たに生まれた子犬たちは、直接飼い主さんに販売されることもあれば、ペットショップなどのお店に販売されることもあります。
では、ペットショップにいる子犬たちは、ペットショップ側が直接ブリーダーから購入した子たちなのでしょうか?答えはノーです。実は、ブリーダーから直接仕入れをしているペットショップは少数派で、ペットショップにいる子犬たちの大半は「ペットオークション」経由で買われています。
ペットオークションとは
(出典:プリペット株式会社)
ペットオークションはその名の通り、子犬を仕入れるためのオークションのこと。オークションが開催されるタイミングになると、多くのブリーダーが子犬を持ち寄ります。そしていざ競りが始まると、ダンボールに箱詰めにされた子犬たちがベルトコンベアーの上を流れ、たくさんの観客(主にペットショップのバイヤー)が見ている前で抱き上げられて値段が付けられていきます。
ペットショップのバイヤーたちは、子犬の情報が記載された資料と、実物の子犬の様子を見て、競り落とす金額を決めていきます。オークションに参加するにはお金を払って会員になる必要がありますが、ブリーダーの犬舎を一つずつ周るよりも、見た目のよい高く売れそうな子犬を一度に大量に仕入れることができるで、このオークションを利用するペットショップは非常に多いのです。
これらは俄かに信じがたい話かもしれません。しかし、ペット業界では至って普通のことなのです。その証拠に、「ペットオークション」と検索をすると全国のペットオークションがズラリと出てきますし、日本最大のペットオークション「プリペット」のHPには、ベルトコンベアーの上を流される子犬や箱詰めの子犬の写真が公然と貼られています。
もしかしたらむーたんも、この競りにかけられていたかもしれません。もしそうだったとしたら…。お母さんから引き離された後、こんな物のように扱われていたなんてあんまりです。むーたんがいまだに私たち以外の人間を怖がるのは、このような辛い経験をしたことが原因かもしれないと思うと、とても悲しい気持ちになります。
ペットオークションの問題点
愛する家族がオークションにかけられていたという事実だけでも胸が痛くなる話ですが、ペットオークションにはさらに大きな問題点があります。それは、オークション会場のせいで子犬の生まれ育った環境がブラックボックスになり、悪質なブリーダーを育てる温床となっていることです。
世の中にはさまざまな種類のブリーダーがいます。心から犬を愛しているブリーダーさんもいれば、劣悪な環境で子犬を量産する、いわゆる「パピーミル(子犬工場)」も山ほどあります。ここで問題なのが、どんなブリーダーでも子犬をオークションで売ることができるということ。どんなに悪質なブリーダーでも、オークションに行けば子犬をお金に換えることができるのです。
もちろん、ペットショップの中にはオークションを介さず、自分たちで優良なブリーダーを開拓して子犬を仕入れるところもありますが、そういったショップはまだまだ主流ではないのです。
ペットショップの考え方もさまざま
犬たちが幸せになれるペットショップ
ペットショップも会社によって考え方が全く異なります。中には犬たちを心から愛し、大切にしているショップもあります。そういうショップは、子犬たちの過ごす環境がきちんと整っていたり(給水ボトルがある、トイレと遊ぶ場所が分かれている、十分な広さがある等)、子犬たちを仕入れる際にはオークションを介さず、優良なブリーダーと直接取引きしたりして、犬たちが幸せに過ごせるような配慮がされています。
私が好きなペットショップの一つ、あさひペットさんのホームページには、「床から50センチがわたしたちの職場」という絵本が載せられています。スタッフの方々がどれほど犬たちを大切に思っているか、強く伝わってきて、普通に絵本として読んでもジーンとくるので、犬好きな方はぜひ一度読んでみてください!
「犬は単なる商品」なペットショップ
一方で、子犬を完全に品物としてしか考えていないショップもありました。仕事の打ち合わせで、とあるペットショップを訪れたときのこと。人事責任者の男性がこんなことを言っていました。
- 「あいつら(子犬のこと)ほんとに臭いから、スタッフが長続きしなくて困ってるんですよ。まぁでもほんと、よっぽど好きじゃないと店なんかで働けないですよね。あいつらマジでくっせーから!」
- 「あのね、●●エリアは今子犬がバンバン売れるの!あの辺の人は安い犬見るとどんどん買ってくから、これからもガンガン値引いてバンッバン売ってくよー!」
そのときの私は、まだペット業界について無知だったこともあり、犬をビジネスにしているはずのこの男性が、しかも本社の責任者を勤めているはずの人間が、なぜこんな心ない発言をしているのか全く理解できず、頭に血が上って言葉が出てきませんでした。
私たちが思っている以上に、ペット業界には犬を商品や物として考えている人間が多く存在しているのです。
幸せな犬を増やすためにできること
ペット業界の闇は私たちが思っている以上に深く、身近なところにあります。私たち飼い主と一緒に暮らしている犬たちの中には、ペット業界の闇を経験した子も多いはず。悪質なブリーダーの元で生まれたり、競りにかけられたり、ペットショップで単なる商品として扱われたり、そんな経験をした上でお家にやってきている可能性は十分あります。私たち飼い主に出会えていなかったら、もっと深く恐ろしい闇に飲み込まれていたかもしれません。そんな状況を変えるために、今できることはないのか考えた結果、私はある一つの結論に達しました。
どんな人でも、無理なくできる保護犬活動!
お話しした通り、ペット業界は構造的に大きな欠陥があります。犬を粗末に扱う業者がうじゃうじゃしているにも関わらず、法による規制は緩いまま。犬たちを守る動物愛護法が強制力を持って犬たちを救えるようになるのは、まだまだ先のことでしょう。そんな状態で私たちに何ができるのでしょう?
動物愛護法の改正を訴えたり、悪質なブリーダーやペットショップの廃絶を訴えたりすることだけが保護犬活動ではありません。私たち誰にでもできること。それは、消費者側、つまり飼い主たちの意識を変えていくことではないでしょうか。私たちが何も知らないでいるから、悪徳業者は「今のままで問題ない」と思うようになるのです。私たちが犬に優しいショップやブリーダーを見極める力がないから、犬たちを取り巻く環境はよくならないのです。
私たち飼い主の意識が上がれば、業者側も犬たちの過ごす環境を整備せざるを得なくなります。ペット業界の中で、優良な業者がどんどん増えて、悪質な業者が少数派になれば、法の整備もより早く進むようになるでしょう。消費者の意識が変わると、いい連鎖が起こせるようになると思うのです。
まとめ
今、一緒に暮らしている愛犬からたくさんの幸せをもらっている飼い主さんであれば、「犬は家族」という本当の意味を、誰よりも理解できると思います。飼い主さんの意識が変われば、これから犬を迎える人の意識も自ずと変わっていくはず。犬たちに優しい環境を作れるのは、私たち飼い主なのではないでしょうか。