くんくん、くんくん。
なんだかいい匂いがしてむーたんは目が覚めました。
なんだろう?とってもいい匂い…。
くんくん。くんくん。
いい匂いはソファーの方から漂ってきます。
これはパパが寝る前に食べてたクッキーの匂いです。
あのときは一欠片ももらえなかったけど、おいしそうだったのでむーたんはずっと気になっていたのでした。
お姉ちゃんの方を見てみました。
爆睡しています。
お姉ちゃんはいつも寝たら起きないから問題なし。
パパの方を見てみました。
パパも寝ています。
パパは小さな音でも目が覚めるので、むーたんは足音を立てないようにそろり、そろりとお布団を抜け出しました。
ソファーの上に登って匂いを嗅いでみます。
くんくん、くんくん。
りんごとバターのいい匂いがします。
どこにあるんだろう。
ソファーの手すりに前足をかけて立ち上がると、クッキーの袋が目の前に現れました。
パパはたくさんクッキーの入ってる袋を開けて、2〜3枚食べたあとそのまま放置して寝てしまったのでした。
えいっ!
前足でカリカリすると、クッキーの袋と袋から飛び出たクッキーがバラバラと床に落ちました。
きゃっほー!
まずは落ちた時に散らばったクッキーのカケラを舐めてみます。
きゃはーっ✨
なんという美味しさでしょう。
あまーいバターの匂いが床一面に広がっています。
今度はクッキーの塊に狙いを定めて、それー!とつげきーーー!!
おいち〜っ!!!
次から次へとむーたんはクッキーをむしゃむしゃやりました。
10枚食べたあたりでお腹が膨れてきましたが、こんなチャンスはもう二度と訪れないかもしれません。
まだまだいっぱい落ちています。
あっちにも、こっちにも。
むしゃむしゃむしゃ。
おいしい、おいしい。
むしゃむしゃむしゃむしゃ。
袋の中のカケラまで全部キレイになめとった頃には、むーたんの小さなお腹はぽんぽこりんになっていました。
床がピカピカになったのを見届けて、むーたんは重たいお腹を引きずってベッドに戻りました。
ちょっと苦しいけど幸せです。
お布団の上に丸まったむーたんは、いい気分のまま眠りに落ちました。
翌朝、小さな音でサイドボードの上の目覚ましが鳴りました。
パパの目覚ましです。
むーたんはパパにおはようの挨拶をしようとしましたが、なんだかお腹がいっぱいで、朝ごはんをねだる気分になりません。
パパはむーたんにおはようと声をかけて少し仕事をすると、そのままお風呂へ入ってしまいました。
うーん、おなかがくるしいなぁ。
むーたんのおなかは朝になってもまん丸でぽんぽこりんでした。
ちょっと苦しくてもぞもぞしていると、ねぼすけお姉ちゃんも目を覚ましたようです。
「むーたん、おはよ〜。」
お姉ちゃんは起きた直後こそ寝ぼけていましたが、すぐにむーたんの異変を察知しました。
「むーたん、どうしたの?なんで今日はごはんごはんって言わないの?どこか体調が悪いの?」
それからお姉ちゃんはリビングに落ちてる袋を見つけました。
袋を拾い上げたお姉ちゃんの顔色がサッと変わったので、むーたんはドキドキしてしまいました。
できる限り縮こまって存在感を消そうとしましたが、お姉ちゃんはそんなむーたんに目もくれず、ものすごい剣幕でお風呂場の方へ・・・。
「ちょっとーーーーー!!!」
ベッドまで響く大きな声です。むーたんはドキドキして、もっともっと小さくなりました。
「朝、クッキー食べた?!」
「クッキーがない!!!昨日袋パンパンに入ってたクッキーが一枚もない!!!!」
再びドスドス大きな足音を立ててお姉ちゃんが戻ってきました。
袋に記載されている原材料を確認します。
バター、小麦粉、りんご果肉、砂糖、重曹、ショートニング…。
チョコレートは入っていませんが、内容量は100gもあります。
むーたんの3日分のごはんよりも多い量です。
お姉ちゃんがクルリとこちらにむきなおったので、むーたんは必死に見て見ぬ振りをしましたが無駄でした。
むーたんの口からはクッキーの甘い匂いがするし、おなかは今まで見たことがないくらいぽんぽんだったので、ごまかしようがなかったのです。
「むーたん・・・!!!クッキー、全部食べたの?!?!」
お姉ちゃんはそのままむーたんを抱き上げると、動物病院へ連れて行ってしまいました。
むーたんは怖くてブルブル震えました。
夢の代償は大きかったのです。
幸いなことに中毒物質は入っていなかったので、むーたんは痛いことをされずにお家に帰ることができました。ただし罰として朝食は抜かれ、長めのお散歩でカロリー消費をしなければなりませんでした。