これはまだ私が会社勤めをしていた頃のお話です。今から1年以上前に起こった事件をテーマにしていますが、今回の主人公、こうちゃんは今もまだ元気で暮らしています。決して悲しいお話ではありませんので、どうぞ安心して読み進めてください。
ある朝、目を覚ましてスマホを見ると、父から着信がありました。午前6時にかかってきていて、私は爆睡していたので気付かなかったのですが、LINEにも連絡が入っていました。LINEを開くと妹からでした。「実家で何かあったのかな?」と思い、メッセージを開いてみると・・・
こうちゃんの体調が急激に悪くなった。死ぬかもしれないって。
こうちゃんは岡山の実家に住んでいる、ヨークシャーテリアの女の子です。女の子といっても、今は13歳。人間でいうと、もうすっかりおばあちゃんです。
私が大学進学のために上京した直後、寂しがっていた妹のために、と両親が迎えた子でした。しかし、家族の中で最も家を離れていた私になぜかよく懐いてくれて、私はこうちゃんに会うために頻繁に帰省しました。母親と妹からやきもちをやかれるほど、私とこうちゃんはとても仲良しだったのです。
(※こうちゃんのことは「私がむーたんのママにならないわけ」で詳しく紹介しています。)
妹からの連絡を見て、私は頭が真っ白になりました。震える指で父親に折り返しの電話をかけます。着信音が響いている間に、目から涙がボロボロと溢れてきました。異変を察知したむーたんが必死に慰めてくれたのですが、そんなむーたんの姿がこうちゃんと重なって余計につらくなり、私は父が電話に出る前から号泣してしまったのでした。
「はい。」
電話に出た父の声は暗く、それを聞いた私の胸はさらに鉛のように重たくなっていきました。
「・・・こうちゃんの、体調が、、よくないって聞いて・・・。」
私の隣には、心配そうな顔のむーたんがいます。むーたんをなでなでしながら、私は泣きじゃくりました。
「そうなんだ。昨日の夜から急にぐったりして、何も食べないんだ。お父さんが触っても、噛み付いてこないんだよ。」
こうちゃんは父のことが大嫌いで、父が触ると本気で噛みついていました。そのお父さんが触っても怒らないくらい具合悪いんだ。。と私は思いました。そして涙でグシュグシュになりながら、獣医さんがなんて言っていたのか尋ねました。
すると驚きの回答が返ってきたのです。
「病院には行ってないんだ。まぁ行かなくていいだろう。」
・・・え?
・・・ん?
・・・は?( ゚д゚)???
寝起きに届いた突然の悲報と、父の意味不明すぎる発言に私は大混乱。
「え、、だって体調悪いんでしょ?どういうこと??なんで病院に行かないの?早く連れて行ってあげなきゃ・・・」
戸惑う私に父は、「いいからもうお前は仕事行け。こうちゃんは大丈夫だ。また連絡するから。」と言い、電話を切りました。
・・・何これ。
どういうこと??
父は昔から非常事態に陥ると、かなりテンパる癖があります。昔おおきな地震がきて家が揺れた時も、アワアワしながら部屋中をぐるぐる走っていたという逸話もあります。今回もきっとテンパっているのでしょう。
こんな時は母親に直接確かめた方が正確です。
とはいえ、父と話した感じからすると、こうちゃんも命に別状があるほどではなさそうです。そこでこの日は普通に出勤して、お昼休憩の時間に母に電話してみることにしました。
お昼休みに電話をかけると、母はすぐに電話に出ました。
「こうちゃんね、今朝まで本当に具合が悪かったの。昨日の夕方に吐いてね、そこからずっとぐったりしてて。お父さんが手を伸ばしても噛み付かないし、あんな食いしん坊なのに、ごはんも全然食べなくて、本当にもうダメかと思ったんだ。でも今は少し落ち着いてるみたい。」
それを聞いて少しホッとするのも束の間、「病院にはもう連れて行ってあげたの?」と尋ねると、とんでもない返事が返ってきたのです。
「病院なんて、絶対に連れて行かない!こうちゃんはもう死ぬのよ!!最期の時は大好きなお家で過ごさせてあげるんだから!病院で痛い目に合わせるなんて、絶対に嫌よ!!」
ええええぇえぇぇぇえええぇーーーーーーっ(O_O;)
テンパってるの、お父さんだけじゃなかったーーーーーーーー!!!
やばい。。これはやばい。。。
お母さんはテンパると、お父さん以上に手に負えなくなるのです。
「お母さん!!変なこと言ってないで、ちゃんと病院連れて行きなよ!こうちゃんは死なない!一旦落ち着いたなら、ちゃんと獣医さんに診てもらうべきだよ!!」
しかし母の仰天発言は続きます。
「だって!!あのこうちゃんが、お父さんのことを噛み付かなかったんだから!だから、もう死んじゃうのよ…。それで昨日は、こうちゃんの好きなものを食べさせてあげようって思って・・・うぅっ。
サンマの塩焼きをあげたの。
そしたらこうちゃん・・・喜んで食べてたぁ・・・。」
うおおおおおーーーーーーーーい!!!ヽ(゚ロ゚;)
そんなものあげたらダメだろーーーーーーーーーー!!
昼休みの時間を目一杯使って、必死に母を説得し、なんとかその日の午後に病院へ連れて行ってもらえることになりました。全くもう・・・。
一応誤解がないように伝えておきたいのですが、私の両親はこうちゃんのことを心から愛しています。年とともに膀胱炎を発症しやすくなったこうちゃんのために、大規模なリフォームをしてリビングに床暖房を入れるくらい、こうちゃんのことをとても大切に思っています。こうちゃんも、お母さんのことは大好きですし、お父さんのことは嫌いですが、ごはんの時だけは自ら寄って行きます。
ただ、両親がこうちゃんを迎えたのは、世間が外飼いから室内飼いへと移行しているタイミングでした。今の私たちにとっては常識となっていることも、この頃まだ普及していないこともたくさんあったでしょう。人間の食べ物を山ほど分け与え、体重管理はろくにせず、誤飲しそうなものが部屋にゴロゴロ転がっている−−−。私たちからすると、かなり危なっかしい飼い方をしていたのは、甘やかしが半分と、それから時代的な要因も半分くらいあるのだと思います。
そして翌日、動物病院へ行った母から報告の電話がありました。
- こうちゃんはいつもお庭を好き勝手お散歩していて、カエルや蝉の死骸なんかを食べている。
- 庭で変なものを食べて帰ってきては、家の中でよく吐いていた。
- 今回も何か変なものを食べて、家の中で吐こうとした。
- しかし高齢なので気管が弱っており、吐いたものが肺に入りそうになった。
- 誤飲性肺炎になりかけたものの、翌日になってポロッとつかえていたものが取れたのではないか。
- 今はすっかり元気を取り戻している。
- だからお祝いにしゃぶしゃぶを食べさせてあげた。
・・・(゚ロ゚;;)
もうツッコミどころは山ほどあるのですが、とりあえずこうちゃんが元気を取り戻したと聞いて一安心です。
本当に人騒がせなんだから・・・。
ただ、よかったこともありました。この事件を機に、両親はこうちゃんの健康管理に気を使うようになったのです。以前は、スケールできっかりフードの量をはかっていた私のことを、「むーたん、かわいそう。お腹減るでしょう。」とか言っていたのでに、今ではごはんの量をちゃんとはかって、体重管理をするようになりました。
今でもこうちゃんは、両親の愛情をいっぱい受けて、元気に暮らしています。私も近々、こうちゃんに会いに帰ろうと思います^^